「はかる」技術を核に、創業から約50年にわたり精密機器の開発・製造・販売を手がける株式会社エー・アンド・デイ。電子天びんや血圧計から自動車関連の試験機まで、産業の発展と人々の健康を支える製品を国内外に届けてきた企業である。

同社がRPAの導入に踏み出したきっかけは、「SAP」への受注入力にあった。入力補助機能がほぼ存在しないSAPでは、製品コードも価格体系も全て手作業が前提で、入力担当者が価格データを見ながら一件ずつ打ち込むのが日常だったという。入力ミスが出荷まで影響を及ぼすリスクも、長年の課題として残り続けていた。

非効率の解消を模索するなか、展示会で英語版のUiPathに出会い、業務標準化を目的として、ExcelとRPAを組み合わせた自動化プロジェクトを提案した人物がいた。当時係長だった、営業管理部の松谷部長だ。

松谷部長がまず着手したのは、処理の見通しが立ちやすい海外現地法人との受注処理である。RPAの効果が出やすい業務から始めることで、社内の理解を得て国内の受注入力へと対象を広げていった。

導入から7年。受注センター全体がRPAを前提に業務を組み立てるようになっていった。その陰で積み重なっていたのは、要望のたびに加えられた機能追加の痕跡だ。

修正のたびに膨大なコードと格闘する日が続くなか、度重なるその場しのぎの修正が原因で処理時間が延び、入力の締め時間に間に合わないことが増えていった。また、ロボットの全体像を把握できる人間が、気付けば社内に誰もいなくなっていた。

限界が見えたとき、同社が選んだのはシーエーシー(CAC)との協業による「SAP受注入力ロボの再構築」である。約半年をかけて現行ロボットを解体・再設計し、アクティビティ数を半減させ、メンテナンス性向上、処理速度改善を達成した。

松谷部長、営業部門から異動し受注センターを統括する小野センター長、前職でのRPA経験を活かして現場のロボットを一手に担う山下係長。立場の異なる3名に、再構築の前後で何が変わったのかを聞いた。

まずは山下さんが、RPA担当者としてどのような業務をこなしているのかを教えてください。

山下氏:日常業務の中心はエラー対応と保守です。自動化の相談が来た際には要件を整理し、RPAで対応できると判断すれば新規ロボット作成も行います。前職では、社外のクライアントから要件を受けて開発する形が基本でした。現在は社内の担当者と直接向き合えるので、業務の流れを理解したうえで改善案を出せる点を魅力に感じています。

RPAは、自動化したい業務の中身を正確に把握しないと、効率の良い設計はできません。まず話を聞き業務の実態を理解することは、精度の高いロボットづくりに直結します。ロボット作成を行う際は、処理の内容や意図をコメントに残し、後から見る人間が理解できるよう整えることも、自分なりのこだわりの一つです。

ロボットが複雑化した経緯を教えてください。

山下氏:SAP受注入力ロボは、RPA導入の初期から動き続けてきたロボットです。要望が生じるたびに機能を付け足してきた結果、処理の全体像が誰にも分からなくなっていました。どこが元々の処理でどこが後から加えた部分なのか、この変数がどの文脈で使われているのか、読み解くことができない状態に陥っていたのです。

日々のメンテナンスや新規開発をこなしながら整理しようとすれば、少なくとも1年はかかる規模でした。人員を増やすわけにもいかないなか、課題は静かに積み上がっていきました。

松谷氏:受注件数の増加に伴い、これまでの処理速度では入力の締め時間までに入力が間に合わなくなることが多くなりました。処理量を増やすためにRPA実行用PCを段階的に追加していきましたが、1台増やすごとにライセンス料もかさみますし、入力の締め時間が過ぎた夕方ごろには、処理する受注がないためPCが余ってしまいます。台数を増やしても根本の解決にはならないと判断し、1件あたりの処理時間そのものを縮める方向へ舵を切りました。

「SAP受注入力ロボの再構築」をCACに依頼した経緯を教えてください。

松谷氏:もともとCACとは、「RPA開発/運用保守サポートサービス」の契約を結んでいました。月に15時間、エラーへの対応や既存ロボットの改修など日常的なメンテナンスをお願いしてきた関係です。長く一緒に動いてきたなかで、業務の状況を深く理解したうえで提案を返してくれる姿勢が、信頼の土台になっていました。そのおかげで、今回の再構築のような規模の案件も迷わず依頼できました。

CACによる「SAP受注入力ロボの再構築」を経て、どのような変化がありましたか。

山下氏:1,979あったアクティビティ数が1,055まで減りました。重複していた処理や不要な分岐を整理した結果です。これにより修正箇所を特定するまでの時間が段違いに縮まり、メンテナンスの負荷が下がっています。

さらにCACのテンプレートを活用し、入力ファイルの読み込み・メイン処理・アウトプットという3つのブロックへの構造化も行いました。以前はこれらが混在した状態で、メンテナンス時にどこから手をつければいいか見当もつきませんでした。構造化によって「まずどのブロックを見るか」を絞り込めるようになり、見当違いの場所を探し続ける無駄が解消されています。

松谷氏:再構築のあいだ、CACからは処理の仕様や機能の利用状況について確認が入るのみ。こちらは変わらず日常業務へ集中できました。

売上が伸び、受注件数も増え続けているにもかかわらず、業務標準化を進める中で営業事務員の人数は最小限に抑えられ、長期にわたり据え置いたままです。 再構築によって処理が安定したことで、増員なく対応できる体制が維持されています。

小野氏:再構築を終えてから、入力の締め時間に遅れることがなくなりました。以前は締め時間が迫るなか、入力担当者が昼休みも落ち着かずに入力を続ける光景がありました。再構築によって処理時間が縮まったことで、今は締め時間の1時間前には入力処理が完了しています。常態化していた残業もなくなり、担当者の表情が以前よりも晴れやかになりました。

今後のRPA活用について、展望を聞かせてください。

松谷氏:今は山下が主体となって運用していますが、UiPathには業務効率化の余地がまだ残されています。特定の担当者に依存する体制から抜け出し、全社で使いこなせる仕組みへ広げていくことが、次に取り組むべき課題です。

小野氏:現在RPAの活用は首都圏エリアにとどまっていますが、全国の拠点へ広げていくことが目標です。場所を問わず処理できるRPAの特性を活かして、各地の担当者が同じ環境で作業できる体制を整えていきたいと考えています。

人材育成への波及効果も期待しています。基幹システムの習熟に半年から1年かかっていたものが、ExcelとRPAを組み合わせた入力環境になってからは、1ヶ月程度あれば足りるようになりました。新人が早期に戦力化できる仕組みを社内全体に広げ、組織の底上げにつなげていきたいと考えています。

RPAの複雑化や属人化に悩む企業へ、メッセージをお願いします。

山下氏:RPAのメンテナンスは、日々の業務に上乗せで発生する作業です。ロボットが動いていようといまいと、処理すべき業務そのものは消えません。その上に保守や改修が積み重なる構造を一人で抱え込もうとすれば、どこかで必ず限界が来ます。

社内で人手を確保するのが難しいなら、外部に頼る判断を早めに下すことを勧めます。着手が早いほど、効果を享受できる期間は長くなる。自分の業務時間を削るものだからこそ、早く動いた分だけ見返りがあることは間違いありません。工数とやれることを天秤にかけて迷うより、まず初動を急ぐことが結果を左右します。

松谷氏:RPAのツールさえ導入すれば問題解決ができると思われがちですが、自社だけで開発・運用を完結させようとすると実際には壁にぶつかります。CACのような外部ベンダーの確かなサポートを受けること、そして社内に少なくとも一人、管理できる担当者を置くこと。この2つが揃って初めて、一つの業務が軌道に乗り、次に自動化すべき対象がおのずと見えてくる。山下のように「ロボットを作るのが好きだ」と担当者が自ら言える状態になれば、組織としての推進力は自然と生まれてきます。

株式会社エー・アンド・デイ様、本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。